こんにちは。
先日気になるデータが発表されました。EF(Education First)による各国の英語能力ランキングです。
このデータによると、日本は調査対象88ヶ国中49位、英語力は低いと評価されています。しかも昨年から順位も英語能力指数も低下しているとか。
今日はこの調査結果のまとめとともに、英語力を上げるために個人レベルでできることを考えてみたいと思います。
EF EPI英語能力指数とは
EFは1965年にスウェーデンでできた、留学、交換留学、語学留学などのサポートをする会社です。そのEFが提供しているEF英語標準テストを2017年に受験した世界中の130万人を超える受験者のデータに基づき、各国の英語能力を調査、分析しています。2011年に始まり、今回は8度目の調査です。
”無料のオンライン英語力テスト”を受けた人たちのスコアで判定されているので、サンプルに偏りが出ている可能性はありますが、ランキングだけでなく、各国の経済、語学教育事情も比較できるので、興味深いデータだと思います。
日本人の英語力ランク
冒頭で述べた通り、2018年度は調査対象となった88ヵ国のうち49位、アジア21ヵ国の中では11位となっています。英語能力レベルは低いと判定されています。
毎年調査対象国の数が増えているため、一概に順位で比較することはできませんが、調査が始まった2011年~2015年までは標準的という判定だったものが、2016年から3年連続低いという判定に転落しています。これは相対評価ではなく、テストの成績による絶対評価ですので、この調査の上では日本人の英語力は低下していると言っても過言ではないと思います。
この調査による英語力は、以下の5段階で評価されています。
非常に高い(CEFR レベルB2/英検準一級/TOEIC L&R 850程度)
- 社会生活の場面で正しい意味合いを持たせた適切な言語を使用できる
- 高度な文章を簡単に読むことができる
- 英語のネイティブスピーカーと契約交渉ができる
高い(CEFR レベルB1/英検二級~準一級/TOEIC L&R 780程度)
- 職場でプレゼンを行っている
- テレビ番組を理解できる
- 新聞を読む
標準的(CEFR レベルB1/英検二級/TOEIC L&R 680程度)
- 専門分野における会議に参加している
- 歌の歌詞を理解することができる
- 熟知した内容についてプロフェッショナルなメールを書くことができる
低い(CEFR レベルB1/英検準二級~二級/TOEIC L&R 550程度)
- 観光客として英語を話す国および地域を旅することができる
- 同僚とちょっとした会話ができる
- 同僚からの簡単なメールを理解することができる
非常に低い(CEFR レベルA2/英検準二級/TOEIC L&R 380程度)
- 簡単な自己紹介(名前、年齢、出身国および地域)ができる
- 簡単な合図を理解できる
- 海外からの訪問者に基本的な指示をすることができる
この中で、日本人の英語力は”低い”に分類されています。英検準二級~二級、TOEICでは550くらいにあたるレベルですから、現在の日本の高校卒業時の英語レベルに相当しますね。
評価が下がったとはいえ、ある意味妥当な結果とも言えます。
しかし、世界全体では英語能力が向上しているようですので、日本は取り残されてしまった形ですね。
ちなみにTop3は、1.スウェーデン、2.オランダ、3.シンガポールです。教育の水準が高いと言われる北欧。1位のスウェーデンを始めとして、4位のノルウェー、5位のデンマーク、8位のフィンランドと、上位を占めていますね。
なぜ日本人は英語が苦手なのか?
語学ビジネスの市場規模は年々増大し、国も早期英語学習など教育制度の改革に力を入れている昨今ですが、それに反して英語力は伸びていないどころか、低下している可能性が示唆されています。
英語に苦手意識のあるわれわれ日本人ですが、なぜこんなにも英語が使えないのでしょうか?
以下の2つの記事から読み解いてみたいと思います。
英語教育と日本人の気質
こちらのJapan Todayの記事では、日本人が中学高校と6年間英語を学んでいるのに話せない理由に、以下の3点があるとしています。
1. Inadequate reinforcement of the lessons
授業で教えたことを補強する学習が足りないということ。
解決策として、習った言葉が実際に使われている場面に出会える素材を使うべきだと述べられています。学校の授業には、読書や会話、プレゼンや映画鑑賞などの機会がないですからね。文法中心の学習が問題なのではなく、その知識を完成させるための補強学習が必要とのこと。
2. Classroom control
次に挙げられているのが、授業のコントロールです。従来の講義型の授業では、生徒は静かに集中していることを強いられます。
その結果、生徒は先生の話を聞いておらず、授業の効果が損なわれます。生徒たちが思い通りに発言できる雰囲気作りができていないのは、日本だけでなく、世界各地の学校で起こっている問題だそうです。先生が、生徒から動き回ったりおしゃべりすることを恐れないことが大事だとのこと。
3. Inadequate practice
最後に、練習量の足りなさが挙げられています。
知っていることと実際にできることとは大きく異なります。他の人と向かい合い、あらゆることを脳内起こします。汗をかき、頭が真っ白になり、漏らしてしまうかもしれない。良いことばかりではない。それでも練習しなくてはならないとのこと。
さらに、英語学習を阻害する日本の文化的背景について、以下の2点が述べられています。
1. Silence constitutes an acceptable response in Japan
日本では寡黙であることが受け入れられているということ。
話さなくても許されるどころか、話さないことが推奨されています。馬鹿げたことしたり、自分の考えを述べたがる人はいません。学校の先生や両親からのしつけにより子どもの頃から身に付いたこの性質が、語学をアクティブに学ぶことを阻んでいるということですね。
2. Japanese people by and large don't understand that English is not optional, but essential
日本人は英語力が選択できるものではなく、必須であるということを理解していないということ。
島国で、単一民族、外国人も少ない日本において、大多数の日本人が英語の必要性を感じずに生活しています。
しかし、今や格安航空会社やインターネットの出現で、国と国の間の距離はなくなりました。同時に、貿易や医療・化学の知識の交換、サービスの拡大など、あらゆる場面で必要になるのは紛れもなく英語です。それを本当に理解しない限り、そもそも真剣に英語を勉強しようという気にはならないですからね。
言語の距離と学習時間
日本語の学習は難しいという話を良く聞きますよね。それは漢字を使うから?3種類の文字があるから?学習の機会や教材が少ないから?確かにそれらも理由にはなりますが、何より日本語と英語は全く異なる言語だからというのが一番大きな理由です。英語圏の人たちにとって日本語が難しいように、日本人にとっても英語は難しい言語なんです。
以下の記事にはその距離感と必要な学習時間がまとめられています。
アメリカのForeign Service Institute (FSI)の調査により、英語と他の言語との間の距離がランク化されています。英語話者を対象に、他言語の習得難易度を、日常会話レベルの習得にかかる時間で調べたところ、62ヶ国語の中で日本語は一番難しい言語のグループ(2400〜2760時間)にランクインしました。
さらに、TOEICで900点以上を獲得している日本人たちは、4000〜5000時間を英語学習に費やしているとのこと。
では、日本人が6年”も”勉強していると言われる、中学高校の英語の学習時間は、トータルでどのくらいになるかというと、中学で350時間、高校で437時間、合計787時間です。日常会話ができるようになるとされる2500時間には到底及びません。
先のFSIの調査では、英語話者が720時間の日本語学習で到達したのは、サバイバルレベルだったとのこと。かろうじて自分の意思を日本語で伝えられる、といったところでしょう。
現状はさておき、日本政府は2020年から、高校卒業時にCFERでB1レベル(英検二級程度)を達成するという目標を掲げています。冒頭のEFによる調査では英語力が普通と判定されるレベルですね。
本当にそんなことが可能なのでしょうか?「早期英語教育が始まるから大丈夫じゃないか」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、小学3年生から英語の授業が導入されても、高校卒業時の英語学習時間は1000時間以下なのです。B1レベルに到達するには、1500時間足りないということになります。英語4技能化といい、理想は高くても実体を伴わない教育改革の実態が見えてきますね。現場の先生たちの混乱と疲弊ぶりが目に浮かぶようです。
また、今後の日本人の英語力に関し、リンクの記事では、英語を話す環境や機会に恵まれた学生たちだけが国の目標であるB1レベルを達成できるという懸念が示されています。つまり、経済格差が英語力の格差に繋がり、さらには国際化社会で活躍できるチャンスの違いまでも生み出してしまうのです。
冒頭のリンク先でも明らかですが、日本の教育予算は極めて低いです。国家予算に対する割合が9.2%。調査対象国の平均が14%とのことですので、平均のわずか2/3です。
これではますます、各家庭の教育費の格差が、子どもの学力格差に繋がってしまいますよね。
解決策を考えてみる
今回のEFの調査の結果、英語力が高い国々の戦略が以下のようにまとめられています。
- 英語が重要なスキルとして公的に認識されている
- すべての子供に小学校からコミュニケーション重視の指導方法で英語教育が行われている
- 生徒に対して英語能力の最低基準を設けており、基準に達しない生徒が出ないようテストを行っている
- 映画やテレビ番組の吹き替えを行わず、できるだけ多くの人が小さい頃から日常的に英語に触れられるようにしている
- 中等および高等教育レベルで、短期および長期の留学機会を資金援助している
- 大学が教授言語として英語で指導するのを許可している
- 大学のすべての専攻およびすべての専修学校で英語を必須科目にしている
- 新人の教師全員のトレーニング計画に英語を含めている
- 英語教師に対して実践的な指導法と指導スキルの再訓練を行っている
- 英語教師が優れた指導法を共有できるよう専門サポートネットワークを設けている
- 公共職業安定所や失業対策事業で高品質の英語指導を提供している
- 政治家、実業家、セレブが英語学習を支援して、国民の手本となっている
ずいぶん日本とは異なりますね。
わたしは政治家でも教育関係者でもないので、国を変えることはできません。
そこで、個人レベルで英語力を高めるにはどうしたらいいのか考えてみたいと思います。
目的をもつ
まずはこれ。英語学習の目的を明確にすることです。英語が必須であるという意識を持とうにも、今の日本ではなかなか難しいのではないでしょうか。一生英語を使わずに過ごせる人生の選択肢がたくさんありますからね。
となれば学習者各々が自分で目的を定めるしかありません。英語を身に付けた先に何が待っているのか、具体的なイメージを持つことです。
ただしここで注意点が。動機と目的を混同しないことです。わたしの周りで英語学習を脱落した人の多くは、動機を目的と勘違いしていました。動機は英語を勉強するきっかけのことです。「会社でTOEICのスコアが必要になった」「海外転勤が決まった」等々はすべて動機です。
わたしの「婚活のために出会いが必要だ」というのも動機です。もしもその後、「英語で各国の人とコミュニケーションを楽しむ」「好きなドラマや映画を字幕なしで味わう」「英語で会議ができるようになる」等の目的が生まれてこなかったら、英語の勉強を続けていなかったと思います。
焦らない
上で述べた通り、我々日本人は、高校を卒業した時点で学習時間が圧倒的に足りていません。日常会話レベルに到達するにはさらに1700時間が必要です。もし1年で達成したいと思ったら、毎日欠かさず4時間半以上の学習が必要だということになります。1日1時間くらいしか時間が取れないという人は、4年半かかるということです。
学習効率を高める勉強法によって、この時間を減らすことはできますが、どちらにせよ英語の習得には時間がかかります。
短期間で結果が出ないことにうんざりして英語学習から脱落してしまう人がたくさんいます。また、なかなか喋れるようにならないから「自分は語学が向いていないに違いない」と諦めてしまう人もいます。
しかしそもそも日本人が英語をマスターするには膨大な時間がかかるのです。6年も勉強してきたのに、ではなく、6年しか勉強していなかったのです。
焦らず地道に続けていけば必ず伸びます!そう信じて一緒に頑張りましょう!!
騙されない
語学ビジネスはお金になるので、過大広告や詐欺まがいの商品などがたくさんあります。簡単に英語が身につくと謳った教材がどんどん発売されています。
しかし、そもそも日常会話レベルが身につくまで1700時間かかるはずなのです。仮に効率が高い方法で学習して時間を縮めたとしても、劇的に縮まるはずはありません。そういった商品に騙される学習者は、3ヶ月でペラペラになるとか、1日5分の学習で1年で喋れるようになるといった学習法を求めているのだと思いますが、3ヶ月毎日2時間勉強したとして120時間、1日5分の学習では1年でたったの30時間です。1700時間がそんなに縮まる学習法があるならば、とっくに教育現場で採用されているはずです。
楽しく英語を身に付けることはできますが楽して身に付けることはできません。安易に騙されないように気を付けましょう。
着実な学習が必ず実を結びます。
質の良い先生、素材を探す
英語力の高い国の戦略に以下の3点が含まれているように、指導者の質はとても大事です。
- 新人の教師全員のトレーニング計画に英語を含めている
- 英語教師に対して実践的な指導法と指導スキルの再訓練を行っている
- 英語教師が優れた指導法を共有できるよう専門サポートネットワークを設けている
英語を学ぶ方法も、場所もたくさんある時代です。
自分に合った学習法を見極め、効果的なレッスンを提供してくれる講師探しをすることが、学習者の立場からできる対策法ですね。
インタラクティブに学ぶ
語学は使ってなんぼ。使えるようになるためにはインタラクティブな学習が必要です。
- すべての子供に小学校からコミュニケーション重視の指導方法で英語教育が行われている
という戦略は、語学学習の臨界期であるクリティカルエイジを意識してのことだと思いますが、大人になってからの学習でも、コミュニケーション重視の学習法が大切だと思います。わたしたちがこれまで受けてきた学校教育には大きく欠けていた部分ですしね。
さらに、冒頭の語学力の調査において、各国に共通して女性の方が語学力が高いという結果が出ています。英会話スクールのグループレッスンでは、女性の喋っている時間の方が長いようにも感じます。
喋りたいという気持ちが語学習得を後押しするのではないでしょうか。
日常から英語に触れる
以前英語がペラペラのフィンランド人に秘訣を聞いたところ、「子どもの頃からテレビで英語に触れていたからだ」と言っていました。まさに、
- 映画やテレビ番組の吹き替えを行わず、できるだけ多くの人が小さい頃から日常的に英語に触れられるようにしている
ですね。日本はアニメとともに声優文化も育ったからか、英語への心理的距離があったからか、テレビで放送される洋画は基本的に吹替ですよね。誰もが分かりやすいようにという配慮でもあるのでしょう。それが当たり前と思って育ってきましたが、世界の当たり前ではないんです。
経験上、足りていない1700時間全てを100%集中した学習に当てる必要はないと思います。むしろ、日常的に英語に触れることで、脳が英語から離れない状態を作っておけば、足りない1700時間は縮まると思います。
以前の投稿でご紹介した通り、海外ドラマや洋画、海外アニメ、ドキュメンタリーなどのテレビ放送は、副音声で英語を聞けることが多いです。また、ポッドキャストアプリなど、無料で英語を聞けるネットラジオもたくさんあります。洋楽だって、Spotifyなど無料で聞き放題のアプリがあります。お金を使わなくとも常に英語に触れていられる時代です。周りに話せる外国人がいなくとも、テキストで学んだ英語が実際に使われている場面にはいくらでも出会えます。
ただし、完全に”聞き流し”で身につくわけではありません。常に机に向かいノートをとる必要はありませんが、英語を身に付けたいという気持ちを持って意識的に聞くことは必須です。うちの母は洋画を見るのが趣味で、もう10年以上二日に一本くらいのペースで見ていると思います。英語に触れている時間としては4000時間以上になると思います。わたしより遙かに長いです。しかし全く喋れないし聞き取れません。勉強しようという意識がなければそんなものです。
英語のシャワーを浴びる時は、必ず英語に耳を傾けましょう。
以上、各国の英語力調査の結果から、日本人学習者の英語力向上に大切なことを考えてみました。
英語学習をするときは、自分で目標を定め、受け身ではなく主体的に学んでいきましょう!
焦らず地道に、毎日できるだけたくさんの英語に触れることが大切です。
実践の場を恐れずに、どんどん英語を使っていきましょう。
Today's proverb
The outsider sees most of the game.:岡目八目