話題の『FACTFULNESS』は英語の原書で読んでみよう【英語学習を深めるTED講演動画リスト付】

こんにちは。

今話題となっている本、『FACTFULNESS』をご存知ですか?2018年4月に英語版が発売され、ビル・ゲイツ、バラク・オバマ元アメリカ大統領が絶賛し、ベストセラーとなりました。ビル・ゲイツは2018年にアメリカの大学を卒業した希望者全員にこの本を贈ったとのことですから、その絶賛ぶりが伺えます。

そんな『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』がついに日本に上陸しました!2019年1月に日本語版が発売となり、総合売り上げランキングTOP3にランクイン、ビジネス書第1位になるなど、大きな話題となっています。

わたしは昨年英語ネイティブの友人に勧められ、英語の原書を読んでみました。日本語訳が発売されましたが、英語学習者の方にはぜひ原書に挑戦して欲しいと思い、お勧め記事を書くことにしました。

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著者ハンス・ロスリング氏とは

著者であるハンス・ロスリング氏は、スウェーデンの医師、公衆衛生学者です。アフリカ、アジア、ラテンアメリカ地域における経済開発、農業、貧困、健康の相関関係に関する研究も行い、WHO、ユニセフ等の援助機関で保健アドバイザーを務めたこともあるそうです。さらには、スウェーデンの国境なき医師団を共同で設立するなど、医師として世界のために貢献し続けてきました

さらに、「公費を使って出された公共統計が、自由にアクセスできず埋もれていることが、”事実に基づいた世界観”を構築する妨げになっている」と指摘したロスリング氏は、息子とその奥さんと共に、ギャップマインダー財団を設立。公共統計の利用と理解を高めるため、国際統計を分かりやすい動的グラフィックに変換するソフトウェア”Trendalyzer”を開発しました。その後Googleが買収し、「モーショングラフ」ガジェットとしてGoogleドキュメントのスプレッドシートにも搭載されています。

このように世界の発展のために尽くしてきた彼は、すい臓がんにより2017年2月にこの世を去ってしまいました。そのため、この『FACTFULNESS』は、息子であるオーラ・ロスリングとその妻のアンナ・ロスリングとの共著となっています。

100万部を超える大ベストセラーとなり、世界40ヵ国で発行予定だそうです。

『FACTFULNESS』が伝えること

あなたは世界を正確に捉えている自信がありますか?『FACTFULNESS』は、統計データを正しく読み解き、事実に基づいた世界観を持つように気付かせてくれる本です。

冒頭から、このようなクイズで始まります。

1. In all low-income countries across the world today, how many girls finish primary school?

A: 20 percent

B: 40 percent

C: 60 percent

 

2. Where does the majority of the world population live?

A: Low-income countries

B: Middle-income countries

C: High-income countries

 

3. In the last 20 years, the proportion of the world population living in extreme poverty has …

A: almost doubled

B: remained more or less the same

C: almost halved

このような問題が13問続きます。自信を持って答えられましたか?わたしはここでいきなり自分の知識というものが信用できなくなりました。(答えは本に載っていますので、ぜひご確認ください。)

ロスリング氏によると、専門家、学歴が高い人、社会的な地位がある人ほど正解率が低く、3択問題なのに正答率が1/3より低くなってしまうとのこと。これを彼は、「(ランダムに選ぶ)チンパンジーより低い」と表現しています。

わたしは小賢しい人間なので、こういう問題に出会った時、「出題の目的や作者の意図を考えると、意外なものが正解なんだろう」という計算が働きます。お陰でチンパンジーは辛うじて超えましたが、違う状況でこれらを出題されたら、自信満々に間違えていたと思います。

この出だしが作者の上手いところで、本の評判を冷静に見ていた”知識人”ほど不正解し、本編が気になるのです。さすがTEDカンファレンスの人気講演者。非常にシンプルな導入で、ガッチリ読者の心を掴みます。

『FACTFULNESS』は、教育、貧困、環境、エネルギー、医療、人口問題など、われわれを取り巻く社会の”深刻”とされる問題について、実際のデータとその正しい理解を示してくれます。

私達は日頃、さまざまな先入観や偏見を持って世の中を見ています。その思い込みにより、ビジネスのチャンスを失い、本当に必要なところに必要な援助を届けられないのです。

仮にこの本が統計学の専門家によるものであったら、ここまで絶賛されなかったかもしれません。しかし、ロスリング氏は20年に渡ってアフリカの飢餓について研究してきた方です。医師免許取得後、モザンビークで医師と働いていた期間もあります。その経験から出てくる言葉は、説得力に溢れています

最初にこの本を勧められた時、わたしは懐疑的でした。楽観的な思考でデータを解釈し、その裏にある個々に目を向けていないのではないかと。しかし違います。本当に困っている人に助けの手を差し伸べるために、思い込みを捨てて、世界を正しく把握するための方法を教えてくれる本なのです。

インターネットの普及により、私たちが得られる情報は膨大になりました。そのため我々は、「正しい最新の情報がいつでもどこでも手に入る」と思い込みがちです。しかし情報には全て、提供者によるバイアスが掛かっています。その証拠に、メディア関係者が上記の問題を解いた正答率は一般人と変わらず、チンパンジーより低いそうです。最先端の技術の結集であるAIも、アルゴリズムを作る際にプログラマのバイアス(algorithmic bias)が掛かっていることが問題となっています。

また悲観的でショッキングなニュースは、私たちの心を捉えます。「○回泣けます」が映画のキャッチコピーになるくらいですからね。発信者側は、私たちの興味を引きたいわけですから、世界の悪い面がフィーチャーされがちです。

しかし、世界を正しく知れば、お金や頭の使い道が変わります。使い道が変われば、世界はもっと良くなります。ロスリング氏は楽観的ではなく、悲観的でもなく、極めてニュートラルに世界を見つめているのです。経済界からも政界からも熱い視線を集める理由はここにあります。

ナポレオン・ヒルのAccurate Thinkingにも通じるものがありますね。

英語のレベル

ビジネス書だからと尻込みする必要は全くありません。ボリュームのある本ですし、統計についての話ですが、シンプルで分かりやすい文体ですし、専門用語も出てこないので、中級レベルの英語力をお持ちの方であれば十分読みこなせると思います。

英検二級、TOEIC600点くらいの方は、ぜひ挑戦してみてください

英検準一級、TOEIC800点以上の方はむしろ、わざわざ日本語版を選ぶ理由はないと思います。せっかくですから作者の言葉をそのまま受け止めましょう。

ビジネス書というと難しく感じるかも知れませんが、この本に限らず一般的に、小説と比べて文章が簡潔で分かりやすいのでとても読みやすいです。上の質問項目が英語で読めたなら、原書に挑戦すべきです。「洋書多読をしようにも、ティーン向け小説では読み応えがイマイチ…」という方にも、『FACTFULNESS』の原書を強くオススメします!

また、英語を勉強していると、イベントやレッスン、試験などで、社会問題について自分の考えを述べなくてはならない場面によく出会います。

わたしが今目標としている英検1級のライティングやスピーキングも、しっかりした根拠を示しながら、自分の考えを述べなくてはなりません。そのマインドセットを作る上でも、この本は活きてくると思います。

大人の学習者であれば、教養のある英語力を身に付けたいもの。原書で読めば英語の勉強にもなるので、一石二鳥ですよね。

ハンス・ロスリング氏のTED講演リスト

上でも軽く触れましたが、ハンス・ロスリング氏のTEDカンファレンスでの講演は、累計3500万回もの再生回数を誇ります。TEDはどれも非常に興味深く面白いものばかりですが、分かりやすくてユーモアがあって気付きの多い彼のプレゼンは非常に人気で、10回も登壇しています。

以下に各プレゼン動画を貼っておきます。順番に見るもよし、気になるものから見るもよし。『FACTFULNESS』の基本を押さえておきたいという方は、最初と最後の動画は必ずチェックしてください。

いきなり英語の本に挑戦するのが不安な方は、先に動画を見て予備知識を入れておくと、ぐっと読みやすくなります。スウェーデン語なまりはありますが、全編英語なので、英語の勉強にもなりますよ。

日本語字幕もあるので、英語には全く自信がないという日本語版『ファクトフルネス』読者の方も、ぜひ見てみてください。動く統計データは、さらなる気付きを与えてくれると思います。

どれも面白いので、あっという間に見終えてしまいますよ。

最高の統計について披露(2006)

TED初登場。『FACTFULNESS』のベースとなる主張が詰まったプレゼンです。いかに”事実に基づいた世界観”を獲得するかを、動的でインタラクティブな統計グラフを使いながら、楽しく見せてくれます。

貧困に対する新たな洞察を示します(2007)

ロスリング氏の特技である剣飲みを披露しているプレゼンです。日本の経済と子どもの生存率の成長も紹介されています。「100歳まで生きて今後の統計結果を見届けたいと思います。」という言葉が哀しいです。10年後、20年年後、30年後、最新の統計を基にしたロスリング氏の講演を聞きたかったです。

HIV考察:新たな事実と驚愕のビジュアルデータ(2009)

今や死の病ではなくなったと言われるHIVですが、地域によって状況が随分異なります。医学と統計の知識を合わせてプレゼンされています。「将来の様々な問題に取り組む為には、心だけでもお金だけでもなく、頭を使うことが必要だ。」という結びの言葉は、心にグサッときますね。

私のデータセットであなたのマインドセットを変えてみせます(2009)

「みなさんのマインドセットはわたしのデータセットと合っているでしょうか?」そんな問いかけから始まるこのプレゼンは、今までのまとめといった内容です。ですので、ここまでのプレゼンを見てきた方には目新しさはあまりないかもしれません。「データの良いところだけを見せている」という批判もあったようですが、このプレゼンを見ていると、ロスリング氏が世界の成長を喜び、同時に貧困や病気に苦しむ地域に心を痛めていることが分かります

アジアの台頭は果たしていつか?(2009)

TEDインドで行われたプレゼン。アジアがアメリカ・ヨーロッパに経済・健康共に追い付き、主導権を握る日はいつなのか。統計によると、確実にその日は近付きつつあるようです。国や世界の成長を妨げるものは何か、動くグラフとロスリング氏の実況でとても分かりやすく提示されています。日本の急成長は奇跡的なスピードですが、その理由についても触れられています。アジアの一員として押さえておきたい一本です。

地球規模の人口増加について(2010)

動くグラフとエキサイティングな実況というこれまでの手法を封印して、アナログにビジュアル化している…かと思いきや、お決まりの時間はやってきます。もはや「待ってました!」と言いたくなるくらいです。増え続ける世界人口に対して、我々にできることは何なのか。シンプルな答えを示してくれます。

10年の良いニュース?(2010)

世界各国の発展のため国連が定めた8つの開発目標、中でも幼児死亡率について解説しています。公衆衛生の専門家であるロスリング氏は、独自に調べあげたデータも使用して、これまでの変化と、長期的な展望を示しています。そして、最後には今私たちに課された課題が明確に提示されています。「必ず可能です、やりましょう」という結びの言葉が力強く印象的なプレゼンです。

魔法の洗濯機(2011)

タイトルだけ見るとなんのこっちゃですが、産業化がもたらす変化を、とても分かりやすく説明しています。ロスリング氏のプレゼンの導入部は、誰にでも分かりやすく、込み入った話題でも素直に耳を傾けられるように仕掛けてくれますね。

宗教と赤ちゃん(2012)

カタールで行われたTEDカンファレンスの、宗教が出生率に与える影響に関するプレゼンです。宗教には、他者からの思い込みが強く、偏見を持たれがちな繊細な分野です。ここでも博士はわたしたちの”常識”をぶち破ってくれます。

世界について無知にならないために(2014)

息子であるオーラ・ロスリング氏と共同で行ったプレゼンです。事実に基づいた世界観を持つことがいかに大切かを説いています。『FACTFULNESS』の概要のような一本ですので、本は気になるけど、まだ読むか迷っている…という方はぜひ見てみてください。

公式サイトで動く統計データを使ってみよう

ハンス・ロスリング氏の設立したギャップマインダー財団のサイトでは、TEDカンファレンスで使用していた動く統計グラフが豊富な統計データと共に無料で使用できます。英語のサイトですが、直感的に使えるので、自分の気になる統計データを、楽しく読み解いてみてください。

www.gapminder.org

 

ビジネス界からも政界からも注目を集める『FACTFULNESS』ぜひ英語の原書に挑戦してみてください

お近くに大きな書店のない方でも、原書はネットで簡単に手に入ります。分厚い本ですので、出先で読みたいという方であれば、電子書籍がおススメです。

Factfulness: Ten Reasons We're Wrong About The World - And Why Things Are Better Than You Think

Factfulness: Ten Reasons We're Wrong About The World - And Why Things Are Better Than You Think

英語は苦手だけど、FACTFULNESSを読んでみたいという方は、こちらの日本語版をどうぞ。 

FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣

FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣

  • 作者: ハンス・ロスリング,オーラ・ロスリング,アンナ・ロスリング・ロンランド,上杉周作,関美和
  • 出版社/メーカー: 日経BP社
  • 発売日: 2019/01/11
  • メディア: 単行本
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英語圏で大きな話題となっている本なので、英会話レッスンの話題のネタにもなるかもしれません♪

 

Today's proverb

Example is better than precept.:論より証拠