こんにちは。
イギリスやオーストラリアなど、いくつかの辞書のWord of the Year 2018を調べてきましたが、今日はアメリカの老舗辞書サイト、Merriam-WebsterのWord of the year 2018をご紹介します。
Merriam-Websterとは
ウェブスター辞典は、19世紀初頭にノア・ウェブスターが最初に編纂し、アメリカ英語の歴史上、非常に高い価値と伝統がある辞典です。英英辞典といえば、Cambridge、Oxford、Longmanあたりが主流ですが、英語でボキャビルするこちらの本は、学習者にも人気ですよね。

Merriam-Webster's Vocabulary Builder
- 作者: Mary W. Cornog
- 出版社/メーカー: Merriam Webster Mass Market
- 発売日: 2010/05/01
- メディア: マスマーケット
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そんなMerriam-WebsterのWord of the Yearは、検索回数やその上昇率から選ばれた、まさに、その年人々が最も関心を示した言葉のランキングです。
Word of the Year 2018:justice
名詞
1.a:正しいことの維持や管理
b: 裁判官、判事
c: 司法2.a:公正、公平
b(1):公正や正義の原理原則
(2):公正や正義の原理原則に従うこと
c:法に従う資質
3.正当、妥当、当否
Merriam-Webster.comで最も多く検索され、Word of the Yearに選ばれた単語はjusticeです。2017年に比べて74%増加したとのことですから、急激に関心を集めたことが分かります。
さまざまな意味を持つこのjusticeが2018年には国中で議論の的になりました。その例として、racial justice(人種)、social justice(社会)、criminal justice(犯罪)、economic justice(経済)が挙げられています。
2018年は、アメリカの司法省(the Department of Justice)や判事(justice/judge)に関するニュースが世間を賑わせた年でした。特に、特別検察官による2016年のアメリカ合衆国大統領選に対するロシア干渉疑惑の捜査や、トランプ大統領が7月に最高裁判事に指名したブレット・カバノー氏の上院司法委員会での指名承認公聴会が国民の高い関心を集め、検索回数の急上昇に繋がったようです。
justiceという単語は、技術や法律に関わることから、高貴で哲学的なことまでさまざまな意味を持っています。あらゆる意味において、またあらゆる理由で、justiceという言葉が多くの人々の心に浮かんだ2018年でした。
英会話のレッスンを受けているとよく分かるのですが、海外の方は政治や社会の動きに強い関心を持っています。また、それについて議論するのも大好きです。というか、当たり前のようです。せっかく英語を勉強して海外の方とお話する機会があるのであれば、国際情勢や日本の社会について、知識と意見を持っておきたいものです。語学習得は、視野を広げ、見識や教養を高めてくれる、とてもいい趣味ですよね。
その他のショートリスト
Nationalism
名詞
1.国への忠誠心
2.国粋主義運動、国粋主義政治
このnationalismという言葉は、テキサスで行われた選挙集会でのトランプ大統領の発言を受け、10月22日、23日に検索回数が8,000%増という急上昇を見せました。
“You know, they have a word — it’s sort of became old-fashioned — it’s called a ‘nationalist.' And I say, really, we’re not supposed to use that word. You know what I am? I’m a nationalist, okay? I’m a nationalist. Nationalist. Nothing wrong. Use that word. Use that word.”
Nationalismは、”国への忠誠心”を意味します。特に、一つの国の地位を高め、その国の文化や利益を最優先することです。また、nationalistは、nationalismを提唱する人です。
nationalism(国粋主義)はpatriotism(愛国主義)と異なり、他国に対して優位に立とうとする意図があります。
“世界のリーダー”とも言えるアメリカの大統領が、自らnationalistであると認めたということは、国民に大きな衝撃を与えたようです。
Pansexual
形容詞
1.性的欲求や性的嗜好の対象が特定の性自認や性指向に限定されない、全性愛の
2.エロティックな感覚を持つ全ての経験と行動を満たす傾向のある
pansexualは、アメリカのシンガーソングライターJanelle Monáeが、4月のローリングストーン誌のインビューにおいて、自らをpansexualであると語ったことで、検索回数が急上昇しました。
20世紀初頭には、上記2の意味で使用されていたこのpansexualという単語ですが、近年は主に1の、全性愛の意味で使用されています。
pan-という接頭語は、”全て”、”まったく”という意味です。”性別は2つに分かれるものではなく範囲である”と捉える人たちにより、bisexualに代わる言葉としてpansexualが使われるようになっています。
1990年代から広がり始めたLGBT(lesbian, gay, bisexual, transgender)という言葉も、さらに多様なセクシャリティがあることが知られるとともに、LGBTIQなど変化してきていますよね。セクシャリティに限らず、マイノリティが自然に受け入れられる世の中になるといいなぁと思います。
Lodestar
名詞
1.道しるべとなる星
2.刺激を与えたり、モデルになったり、指針となったりする人
ニューヨークタイムズ紙に掲載されたある匿名のトランプ政権の高官による記事により、lodestarという言葉の検索回数が、9月初旬に急上昇しました。
この単語が使われたのは以下の部分です。
We may no longer have Senator McCain. But we will always have his example — a lodestar for restoring honor to public life and our national dialogue. Mr. Trump may fear such honorable men, but we should revere them.
— The New York Times, 6 Sept. 2018
8月に亡くなったジョン・マケイン上院議員への哀悼と敬意を表した一節ですね。
元は、北極星などの上記1の意味で使われる単語ですが、現在は2の”指針となる人”の意味で一般的に使用されます。この匿名記事を書いたのが誰なのかを突き止めるために、過去にこの言葉を使用した人物を探す人たちが現れました。それによって、検索回数が増えたようです。アメリカ合衆国副大統領であるマイク・ペンス氏によるものではないかという説が有力ですが、真偽のほどは今も不明です。
使用する言葉にはその人のクセや特徴が現れますし、インターネットで膨大な情報にアクセスできますから、好奇心に駆られて調べる人たちが出てくるのでしょうね。
Epiphany
名詞
1.【the Epiphany】キリスト誕生後に、東方の三博士が初めて訪れた日を祝う日(1月6日)、公現日
2.(神の)出現
3.a.(1)ある事柄の本質や意味に対する突然のひらめき
(2)ある出来事を通して得られる、真実に対するシンプルで激しい直感
(3)啓蒙的な発見、気付き、発覚b.啓発的な場面や機会
epiphanyの元々の意味である公現日の1月6日前後には、特に検索回数の急上昇は見られなかったようですが、K-PopグループBTSの新しいアルバムの楽曲の予告で、このepiphanyという言葉が使われたことにより、8月の急上昇検索ワードとなりました。
この楽曲の中でのepiphanyは、上記3のひらめきや直感を意味しているそうです。
また、この語源であるギリシャ語のepiphaineinは、出現という意味です。
K-Popは世界中で人気なんですね。
Feckless
形容詞
1.弱い、無益な
2.無能な、無責任な
アメリカの人気コメディアンであるサマンサ・ビーさんが、メキシコとの国境において、不法入国した親子を引き離す政策を強化するトランプ政権に対し異議を唱え、トランプ大統領の娘であるイヴァンカさんに対しても、”役立たず”を意味するfecklessを使用した卑猥な放送禁止用語で攻撃しました。この発言は問題となり、のちに謝罪しています。
fecklessのfeckは、スコットランドの言葉で、”価値”を意味します。また、あまり使われることはないものの、fecklessの対義語はfeckfulで、”効率的な”、”効果的な"となります。
日本の有名人はあまり政治の話はしたがりませんが、海外では当たり前のように行われています。メディアの前で公然と批判する意志は素晴らしいと思いますが、人として越えてはいけないラインはありますよね。
余談ですが、スラングについて。生の英語から英語を学習していると、たくさんのスラングに出会います。中にはかなり汚い言葉や人を侮辱するような言葉もたくさんあります。どの単語が失礼ににあたるのか、その境目は、国や地域、年齢、性別、性格、相手との関係性などによって様々です。英語圏に住んで、その感覚を肌で感じて覚えている場合は大丈夫かもしれませんが、国内で学習している場合は得られる情報に限りがあり、意図せずそのラインを踏み越えてしまう可能性があります。こなれた会話を楽しみたいという願望は、学習者なら誰しもが持っていると思いますが、スラングなどの汚い言葉の使用に関しては、慎重なくらいが丁度いいと、個人的には思っています。
Laurel
名詞
1.月桂樹(南ヨーロッパ原産の常緑樹で、黄色の小さな花が咲き、卵型の黒い実がなり、古代ギリシャ時代には、その常緑の葉はアポロンの試合の勝者に与えられる王冠に使われた)
bay、sweet bayとも
2.月桂樹によく似た木や低木
3.a.栄誉を称える月桂樹の王冠
b.功績への評価
5月中旬に突然3300%も検索回数が上昇した植物の名前、それがlaurelです。日本でも月桂樹、ローレルと呼ばれ、肉料理の臭み消しなどに使われますよね。
なぜこの植物の名前がこんなにも注目を集めたのかと言うと、Vocabulary.comという辞書サイトのlaurelのページの音声データが話題になったからです。この音声が、laurelに聞こえるか、yannyに聞こえるかで、ネット民たちの意見が真っ二つに分かれました。
言語学者たちはこの現象について、個々の耳もしくはオーディオの質の違いで、低音と高音どちらの周波数が目立って聞こえることによるものだと説明しました。またこの騒ぎの中、ニューヨークタイムズは、どちらにも聞こえるようなツールを公開しています。
同じ音声が、ツールや耳によって別の音に聞こえるって面白いですね。
Pissant
名詞
つまらない人、もの
時に下品で、一般的に曖昧な言葉であるpissantが、2018年始め、Merriam-Webster.comにおいて、短く、しかし急激に注目を浴びました、なんと検索回数は115,000%の上昇です。
アメリカンフットボールチームのニューイングランドペイトリオッツのクォーターバック、トム・ブレイディが、ラジオ局のインタビューを受けた際、DJが彼の娘をpissantと侮辱したことに対し激怒しました。
pissantはもともと蟻を意味する口語表現ですが、20世紀初頭から、取るに足らない人や物に対する悪口として使われるようになりました。
piss(小便)とヤマアリのイメージから、侮辱的な言葉になったようです。
fecklessのところにも書きましたが、侮辱にあたる言葉の使用には、くれぐれもお気をつけください。
Respect
名詞
1.特定のものや場面との関係
2.特別な関心を払うこと
3.a.高く、特別な敬意
b.尊敬されている状態
c.【複数】高い評価や特別視の表示
4.詳細
8月16日、ソウルの女王と呼ばれたアレサ・フランクリンの訃報を受け、彼女への賛辞として、彼女の永遠のヒット曲のひとつであるrespectがトップ検索ワードとなりました。
フランクリンの楽曲は50年に渡って愛され、市民権やフェミニスト運動のアンセムにもされてきました。
しかし、元々このrespectという単語は14世紀から使われるようになった言葉で、”振り返る”を意味するラテン語、respectusから来ています。何十年にも渡ってアレサ・フランクリンが生み出した音楽に対する世界中からの感謝として、ぴったりの語源です。
本人は亡くなっても、楽曲は永遠に残ります。この世に何かを残して、それが愛される続けられるって、すごいことですよね。
Maverick
名詞
1.焼印のない動物、特に牛
2.グループや団体と付き合わない、独立した人
形容詞
異端の、一匹狼の
Lodesterと同じく、8月に亡くなったアリゾナのジョン・マケイン上院議員の死後、maverickという言葉の検索が急上昇しました。これは、ジョン・マケイン氏が生前、maverick(一匹狼)と表されていたことによるものです。
元々このmaverickは、”母親のいない牛”、”焼印のない動物”を意味する言葉で、19世紀の法律家・弁護士のSamuel A. Maverickの名に由来します。彼は牧場主ではないのですが、借金のカタに牛を取られてしまいました。彼の牛には焼印が入っていなかったため、多くの”独立した”牛が他の牧場主に取られて、焼印を入れられてしまったそうです。
1880年代には、このmaverickという言葉は政治などの単語と結びつき、比喩的な意味で使われるようになりました。
イギリスやオーストラリアの辞書のWord of the Yearは、社会問題に関する単語が多かったのに比べて、Merriam-Websterは約半分が政治絡みです。トランプ政権が国民を真っ二つにしていると言われるアメリカ。人々が高く関心を持ち、不安な状態にあることが伺えますね。
Excelsior
名詞
壊れ物の梱包に使用される、薄くカールした木くず
副詞
より高く
『スパイダーマン』などの原作で知られるスタン・リー氏のモットーであり挨拶の言葉でもあるexcelsiorが、11月の彼の死後、急上昇検索ワードとなりました。彼はこのexcelsiorを、毎月マーベルコミックに寄稿していたコラムの結びの言葉として使用していました。また、公の場で、この言葉を言うように求められたことも度々あったようです。
excelsiorは、”より高く”という意味のラテン語で、excelやexcellentと語源的に関連があります。また、梱包に使われる木くずも意味しています。
スーパーヒーローと言えば、マーベルコミック。数々のヒット作を生み出し、アニメ、実写映画も大人気となりました。子どもの頃にスーパーヒーローに憧れた方も多いのでは?
以上、Merriam-WebsterのWord of the year 2018と、そのショートリストのご紹介でした。
これまで見てきたどの辞書でも、その年の世相を反映した言葉が選ばれていますが、同じ英語圏でも国や選び方によって結果が少しずつ異なるのが面白いですね。
その他のWord of the Year 2018はこちらをご覧ください。
Today's proverb
The end justifies the means.:嘘も方便